秋の夜長、一人で動画を見る理由
公開日: 2026-10-04
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秋の夜長に、読書でも映画館でもなく、一人で動画を見ている。怠けているわけではないと思う。夜が長くなったぶん、自分のために使っていい時間が、季節のほうから増えて届いた。それだけのことだ。
五時半には、もう夜
十月に入って、帰り道の景色が変わった。駅を出たのは五時半。夏なら、まだ夕方の顔をしていた時刻だ。それがいまは、改札を抜けたところでもう街灯がついている。西の空の端に、橙色がほんの一筋残っているくらい。
八月まで、フィルムカメラを持って夜の散歩に出るのは七時を過ぎてからだった。最近は、仕事帰りにそのまま撮れてしまう。夜のほうが、わたしを迎えに来るのが早くなった。
家に着いて窓を閉めようとすると、指先が冷たいガラスに触れる。網戸の向こうでは、名前を知らない虫が、ずっと同じ高さの音で鳴いている。やかんを火にかけて、マグカップを両手で包む。この時点で、まだ六時過ぎ。寝るまでの時間を指で数えてみて、少したじろぐ。夜が、思っていたより長い。
「秋の夜長」の正解に、わたしは乗れない
秋の夜長、と聞くと、たいてい読書の話になる。積んでいた文庫を開く。ジャズを小さく流す。手帳に何か書きつける。雑誌の特集やおすすめ記事に並ぶ過ごし方は、どれも感じがよくて、少しだけ背筋が伸びている。
わたしの実際は、こうだ。
| 「正しい」秋の夜長 | わたしの秋の夜長 | |
|---|---|---|
| 手に持っているもの | 文庫本 | スマホとリモコン |
| 部屋の音 | 静かなジャズ | 動画の音と、外の虫 |
| 飲み物 | 淹れたてのコーヒー | 二杯目のミルクティー(ぬるい) |
| 夜の終わり方 | 栞をはさんで灯りを消す | 「あと一本」を二回言う |
表にすると、なかなか分が悪い。本は買ってあるのだ。ベッドの脇に三冊、帯がついたまま。
それでも最近、後ろめたさの扱い方が少しわかってきた。「秋の夜長」という言葉は、夜が長いという事実を言っているだけで、何をしろとは言っていない。読書は、たくさんある使い道のひとつにすぎない。長くなった夜を自分が楽しく過ごせているなら、手にあるのが文庫本でもリモコンでも、季節に対して失礼ということはないはずだ。
先週は衣替えの日の気分について書いた。夏をしまう寂しさの話だった。あれから一週間、秋はもう寂しさというより、夜の長さとして目の前にある。

長い夜には、長い夜なりの見方がある
夏の夜は短い。暑さがひいてようやく落ち着いたころには日付が変わりかけていて、一本見たらそれでおしまいだった。
秋の夜は違う。一本見終わっても、まだ九時台だったりする。二本目を開ける余白がある。だから見方も、自然とのんびりになる。途中で止めて、お湯を沸かし直す。取り込み忘れたハンカチを思い出してベランダに出る。戻ってきて、続きから再生する。急がなくていい夜というのは、案外めずらしい。
金曜の夜みたいに何かが始まる気配もなく、日曜の夜みたいに明日が迫ってくる感じもない。台風の夜ほど特別でもない。秋の夜長は、ありふれた平日の夜が、まるごと少し長くなるだけだ。その普通さが、わたしは好きだ。
ただ、これだけ時間があると、「次に何を見るか」を何度も決めることになる。一本ずつ探して、値段を見て、迷って。その繰り返しは、長い夜ほど地味にこたえる。見放題のしくみは、たぶんそこを軽くしてくれるものなんだと思う。合わなければ閉じて、次へ。選ぶことに疲れないのは、長い夜と相性がいい気がする。
もちろん、今夜はこれ、と一本決まっている日もある。そういうときは10円セールをのぞいて、その一本だけ借りるのでも十分だ。夜の長さと気分に合わせて、使い分ければいい。
気づいたら、夜がまだ残っている
秋になってから、時計を見て驚く回数が増えた。
二本見て、お湯を三回沸かし直して、さすがにもう遅いだろうと顔を上げると、十時。「まだ十時?」と、誰もいない部屋で声が出る。夏のわたしなら、この時刻はまだ夕飯の皿を洗っていた。
それから毎晩、同じことで迷っている。押し入れの毛布を出すかどうか。出せば暖かいのはわかっている。でも出した瞬間に冬を認めることになる気がして、いまだにタオルケットの二枚重ねでしのいでいる。動画を一本見るあいだに、膝にかけるものを三回取り替えた夜もあった。長い夜の使い道としては、たぶんいちばん生産性が低い。
まとめ
秋の夜長に一人で動画を見るのは、ちゃんとした秋の過ごし方だと思う。読書の秋に乗れなくても、季節は夜をきちんと長くしてくれている。その余白を、好きなもので埋めればいい。
ベッド脇の三冊は、冬に回すことにした。冬のほうが、夜はもっと長いので。
本コラムは脚色を含みます。
※記載の情報は2026年10月時点のものです。